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はるのひととき

七氏のつぶやき&忘備録です。

2gの朝

「そろそろ捨てなくちゃ」

と思って
キッチンの戸棚を片付け始めた
お気に入りのカップでも スープボウルでも
揃いならそれはひび割れと一緒・・・
それはひとつでもなくふたつでもなく
ただの空っぽの器に過ぎない
使えないやつだ
ダンボールにポイだ

棚の一番奥に古いラベルの空き缶があった
振るとカラカラ音がする
中から出てきたのは
銀のティースプーン

「こんなところにあったのか」

そう思いながらも

「これは僕のものじゃない」

そう思って悲しい

この部屋で初めて二人で過ごした日に
君が手土産に持ってきた紅茶の缶だ
あれから何度の朝を迎えて
いくつの夜をめくってきたのか・・・

朝が遅い僕に君が淹れてくれる紅茶は
さわやかで、溌溂として、柔らかだった
好きな色、好きな香り、好きな渋み
本当に好きだった・・・

けれど、いつしか僕はそれに慣れてしまって
「うん」とか「そう」とか
君に横顔ばかり向けて
カップの底まで飲み切らずに放置してた
僕は幸せの目分量を間違えていたんだ

・・・

今、僕は紅茶を淹れることができない
茶葉をスプーンで量ってみても
蒸らす時間を砂時計で計ってみても
どんなに値の張るリーフを買ってきても
いつも君が出してくれた香りにならず
金属的な味しかしない・・・

だから僕はティーバッグひとつ2gの朝
マグカップに放り込んで
熱い湯を注いでも
そしてまた忘れてしまう

気付けば
底の方で紅く溜まってる紅茶の色は
僕の後悔だ
冷めてしまった思い出の底で
動けないままの痛みの色だ

もう少し、ティーバッグはこのままで
引き上げるのをためらう休日の朝・・・
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